「組織は戦略に従う」(チャンドラー)というのは経営学の基本的な命題の一つであるが、本書は、この言葉に象徴される「ヒエラルキー・パラダイム」に挑戦し、これを乗り越える日本発のパラダイムの発信を目指している。
著者の伊丹氏はその経営学者としての経歴の出発点において「人本主義経営」という概念を提示したことで知られるが、「人こそ資本」という日本的経営の本質についての考察を発展させ、成功する経営の根幹に、人がヨコに連携し、情報をやり取りする中で新たな方向性を創り出して行く「創発」の作用があることを主張し、本書においていわばその集大成を試みたものと言える。
「場」という考え方は「組織(特にピラミッド型組織)」の対極にある考え方であり、そのようなものに経営の本質を見ようとすることは、「経営者」或いは「マネジャー」の役割を放棄するものではないかという指摘が容易に予期されるが、著者は、「場」の設定、運営とそこから出される結論に対する承認における「経営者、マネジャー」の重要な役割を本書において繰り返し、また、具体的に提示する。
本書において示される「場」のイメージはまことに魅力的な概念であるが、問題は、現実に存在する企業において、そこでの「場」が有効適切なものになっているのかどうかを、どのようにして知ることができるのか、という点であろう。
恐らく著者の意図としては、客観的な計測が可能な概念として「場」を定義するのではなく、「経営者、マネジャー」が自らと自らの組織を省察する際の、概念上の道具として「場」の概念を提示したのであり、そのようなものとしてこの概念を使って貰いたいというものであろう。