電通や博報堂、大学の偉い大先生の横文字オンパレードの能書き大演説ももちろん毎回お勉強にはなるのだが、それよりもエステーという会社でユニークなホット広告を連発している鹿毛康耳司氏のクリエイティヴ苦労話やサントリーの企業経営と広告を歴代角瓶のキャンペーンなどを事例に生々しく語った久保田和昌氏、さらに東芝の液晶テレビレグザのブランディングを紹介した松本健一郎氏など、やはり宣伝販促の現場で阿修羅のように奮戦している人たちのレポートのほうが断然面白い。
とりわけ今回私の心に刻まれたのは「企業の社会的責任」についてレクチャーした梁瀬和男氏の番外編の挿話だった。
妻を亡くした高校の元校長が、四国八十八カ所巡りを終えて高知空港の和食店で昼食を取った時のこと。ビールとカマスの姿寿司を頼んだ校長が「コップを二つ下さい」というので、どうして二つなのかと不思議に思った店員がカウンターを見やると、くだんの元校長は、亡妻の小さな写真の前の置いたコップにビールを注いで、乾杯しながらなにやら話しかけていた。それと気づいた入社三年目の店員は、出来上がった寿司を持っていくついでに、箸置きと小皿も二つずつ持っていくと、元校長は思わず涙ぐんだという。
高知新聞の記者が書いた「遺影のお客様にもサービス」という99年6月3日の記事を紹介してから梁瀬氏は、「小さな店の二十歳の女子店員でも、とっさにこれだけのことができる。これこそは究極のお客様視点ではないだろうか」と語って、彼の一時間半の講義を締めくくったのであった。
亡き妻と同行二人の旅癒す心づくしの二つの小皿 茫洋