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確かに「城の崎にて」は名作だと思ったし、実際に舞台となった温泉地、宿を訪れてみて、作品の持つ雰囲気がますます良く分かって良かった。が、問題は他の収録作である。「母の死と新しい母」「清兵衛と瓢箪」「正義派」「小僧の神様」までは文句無く名作であろう。しかし、他の十編の選択については首をひねる。「網走まで」や「菜の花と小娘」、「十一月三日午後の事」など他に良い物が幾らもあるのに入っていないのである。後半部に収録されている諸作品を読んでいて「志賀直哉ってこんなに文章下手だったかしらん?」と思ったほどである。又、題材となっている浮気に関する夫婦間の精神的軋轢も気の滅入るもので志賀直哉流の清々しさに欠けるように感じた。
又、巻末の注釈の付け方にも疑問が残った。どうでもいいような地名などの固有名詞を一々説明して、読者に理解しづらい古い言い回しや作者独特の当て字などには触れていない。
初めて志賀直哉の短編を読もうという人は岩波、新潮(『清兵衛と瓢箪・網走まで』)、集英社の各文庫版の方がお薦めである。
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