梟森南溟の '欲情' を読んで何か心がすさんだ気がしたので,軽い気持でこの作品を読み始めた.ところがこの作品は極めて正統的な構成で,かつ美しい日本語で書かれた名作である.ヒロイン由希は日本語-韓国語の翻訳, 通訳の勉強を志していまソウルに住んでいる.幼いうちから父の頻繁な転勤のために,日本のどこの街にも帰属感が持てず,いつも受身の性格の持主に育った.ソウルで学費かせぎのアルバイトをするうちに,恋をする.弱気が災いしてなかなかうまく行かない.そこにもう一人の恋の相手が現れて,初めて男を本格的に愛するようになるのだが,今度は男が煮え切らない.弱気でいる限り恋は実らないと悟って,その気になって妊娠し,両親の猛反対を押し切って正規の結婚に漕ぎ着ける,と言う筋.日本語がしっかりしているのは作者が韓国語から日本語を相対化して書けるためかも知れない.後味のよい新鮮な作品として推薦.