巻頭の射礼の写真における著者の迫力に,まず驚かされる.本文は,難しいことが易しい言葉でわかりやすく表現されており,しかも筋道にしたがって合理的に説明されている.武道の書籍で時々経験するのだが,古文書のように難解な表現や禅もどきの精神論の強調によって混乱させられることは,本書にはない.弓道に関して相当に深く明晰な考えを持っていなければ,このようにわかりやすい文章は書けないと思う.
わかりやすい表現と明晰さは,本書でたびたび言及される,著者が指導を受けた故浦上栄範士と共通しているように思う.たとえば,全日本弓道連盟の「弓道教本 第二巻」では,各流派の代表的な範士によってそれぞれの射技が述べられているのであるが,浦上栄範士による日置流に関する解説が出色である.日置流以外の者にとってもわかりやすい具体的な表現によって,射技の細部が合理的に説明されている.
私は日置流の弓道を実際に学んだことはないのだが,本書は弓道の修練の参考になるだけではなく,わかりやすい文章の書き方の手本にもなると思う.