いつもながら、この著者の本はあっという間に読める。
そして、いつもながら、演劇論とか演技論には踏み込まない。
淡々と、事実が語られていく。
読後、まず思うのは、ただきれいな女形というイメージでしかなかった玉三郎が
こんなにも苦労し、そして、こんなにも他の分野の芸術家に賞賛されていたのかということ。
冒頭から、三島由紀夫やら澁澤龍彦、円地文子といった文学者が登場し
普通の歌舞伎の本とは違うぞ、と思わせる。
文学者間で、玉三郎を最初に発見したのは誰かといったことを列記していくことで
当時の作家たちの、玉三郎への熱い視線が伝わる。
養父守田勘彌が歌舞伎の世界で疎外されていたため、
玉三郎も歌舞伎座に出ることができず、
その間隙をぬって、国立劇場の一スタッフが、玉三郎を同劇場のスターにさせる
プロジェクトを個人で推進していったとは、知らなかった。
全体に、1985年の団十郎襲名までに大半の頁が割かれており
その後については、概略を示すに留め、
今年の歌舞伎座さよなら公演での玉三郎の位置を確認して終わる。
著者の関心は、「スター誕生」の物語にあるのだろう。
その意味で、80年代・90年代から玉三郎のファンになった人にとっては
そのあたりのことが書かれていないのは不服かもしれないが
そのあたりのことは、よく知っているわけだから
あまり知られていない、不遇時代にスポットを当ててくれた
この本は、ありがたいと考えるべきか。
昔の舞台の記述が淡々としているだけに
観たかった、と思わせる。
歌右衛門との確執については、実際にあったのかどうかが
はっきりしないためか、そんなに描かれてはいない。
だけど、歌右衛門の存在の大きさは、かなりよく分かる。