「坂の上の雲」を取り上げた類書が多数ある中で「日露戦争の史実はどうだったか?」ということを真正面から取り上げている点が評価に値します。
本書では、「児玉が本当に重砲転換を実施したのか?」「児玉は天才作戦家だったのか?」「もし、第一回旅順総攻撃時から203高地を攻めていたらどうなっていたのか?」「児玉は大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていたのか?」などなどの点を、従来と異なる視点を提示する形で書かれており、しかも、そうした論旨を、類書のように史料に依拠しない「たられば論」や「空論」で展開するのでは無しに、これまで研究者も学術論文で利用したことがない参謀の日記や、書簡といった一次史料や、参謀の回想といった二次史料を駆使して論証しているのも好印象である。学術論文のように註記がしっかりついていて、どの史料を典拠として書かれているかきちんと明記されているのも、他の類書とは違って好印象が持てる。
特に興味深かったのは、司馬遼太郎が文庫版出版に際しあとがきで書いた「首山堡と落合」の誤りを史料を使用し論証したり、大庭二郎や井上幾太郎など第三軍幕僚の視点から論じた旅順攻撃の考察、伊地知幸介の再評価などである。伊地知が意外に活躍したことがあったり、日露戦後、明石元二郎が参謀次長に出世後に「無能」と周囲から評価されていたことにびっくりしました。
また、ウイキペデイアや他の本では、「児玉が大山から第三軍の指揮権委譲を許可する一札をもらっていた史料的根拠はない」と書かれてますが、本書には「第三軍の指揮権委譲を許可する一札」の原文が引用されている点も、とても新鮮でした。