地衣類に関する一般向けの入門書は無かった。そういう意味でたいへん興味深い本だし、知らなかった事実もたくさん書いてあった。
しかし、記述と本の作り方には重大な欠陥がある。それはこの本を見ても確信をもって同定できる種がひとつもないことだ。
それに怒りを覚えるような欠陥もある。化学分類の記述である。著者は「採集してきた標本を同定するだけなら呈色反応とミクロ法が手軽で実用的である」と書く。そして呈色反応用の試薬の作り方も出ている。ところがその呈色反応の結果が具体的な地衣類の同定とどうつながるのか、例示がほとんどないのだ。「地衣類の色」の項目と合わせて読むのだろうか。不親切な!なにが「手軽なものか!」と私は怒りがわいてきた。さらにここで実用的と書いている「ミクロ法」とは何だろう。その後に記述が無い。後に書かれているのは「顕微化学的手法」というものだ。これが「主要地衣成分を検定する方法としてはおすすめである」というから、たぶんこれが「ミクロ法」なのであろう。顕微=ミクロだろうから。そこで期待して読んでいくと技法は詳しく載っているのに「結晶の色と形から」地衣成分を割り出すとあるだけで、具体的な結晶は一種類しか載っていない、なにが手軽なものか!そして「手法をマスターしたければ一般向けの実習や観察会に積極的に参加するとよい」などと書いてある。一般向きの講習会でマスターできるのなら、本にもっと具体的に書くことが可能ではないのか。私は怒りで本を投げ出しそうになった。
しかし、いや・・・ちょっと待て。「手軽だ」「簡単だ」などと記述してあるから、怒りが湧いたのだ。最初から「難しい」「面倒だ」「素人には無理だ」と書いてあればよかったのだ。著者は地衣類に興味を持ってほしいと思うあまり、つい筆が走ったものの、やはり同定に役立つ検索は無理だと思って具体的に書くのをやめたのだろう。もし本当に同定できるのなら即刻書き直していただきたい。