前後左右、どっちを向いてもただただ真っ白。氷点下数十度の極寒が続き、ブリザードが猛り狂う毎日。生きているものと言えば、せいぜいペンギンとアザラシくらい・・・。
そんなイメージしか持てずにいた南極が、物見遊山気分はもちろん許されないだろうけれど、行きたいと志せばけっこういろんな手段やツテで行ける場所になっている、という本書最終章の話は、南極越冬隊が苦闘するニュースを幼いころから見聴きしていた“年寄り”からすれば、時代は変わったなぁ、という感慨がある。
著者は、15回も南極に赴いた経験から、そんなふうに少なからず誤解しているであろうひとたち向けに、南極の魅力を多角的に、平易な論調で語っている。
20世紀初頭のアムンセン、スコット両隊の南極点先陣争いの話から、南極を平和裡に活用するための国際合意、それらの苦難や曲折を経て、国際協力のもとに数々の業績や成果を得るまで、一連の話を読むと、南極とはまさに奇跡によって成り立ち、もたらされた“聖地”のような場所なのだなと、深く思い至らされる。
日本も南極観測では大いに成果を挙げている。そのひとつが「オゾンホールの発見」だ。もしこれを見過ごしにしていたら、現在の地球環境問題はどう転んでいたものか、考えただけでゾッとする。紙幅の問題もあろうが、日本が地球世界全体にもたらしたこの種の成果はもっと誇ってもよかったのではないか。
紙幅の限界といえば、せっかく“南極観光ガイドブック”を目指しながら、南極観測船や基地での生活、動植物の生態、などの紹介や描写がやや淡白な印象で、ちょっと残念。
それと、本書刊行時には未確定事項だったからやむを得ないが、前任の観測船『しらせ』が民間企業に買い取られ、千葉県・船橋港で一般公開されたことは、レビュアーの義務として(???)ぜひにも付け加え、紹介しておきたい。