北洋をアメリカの新型原子力潜水艦シービュー号が、試験航行をしている。
科学者として有名な元海軍提督ネルソン(ウォルター・ピジョン)が指揮を執
り、実務での運航を目指していた。そんな折、地球上空に、バン・アレン放
射帯が現れ、地球の気温をぐんぐん上昇させていく。空は真赤に染まり、
世界各地で死者が出始める恐怖の事態。国連は、早速、各国の優秀な学
者たちを集め、地球を滅亡から救う案を探る。ネルソンも斬新な案を携えて、
シービュー号でニューヨークへ急行する…。
ショウマン・シップ旺盛なプロデューサー、アーウィン・アレンが、『失われた
世界』に続いて放った海底冒険活劇の佳作。本作がヒットしたことで、3年
後には、『原子力潜水艦シービュー号』としてTVシリーズ化されたことはあ
まりに有名だ。実に精緻に組み立てられたシービュー号内の機器セットの
一部は、『
蝿男の恐怖 [DVD]』の実験室セットから流用されたものとのこと。
国連の採決を待たずに、勝手に核ミサイルの発射を実行しようとするネル
ソンの姿に、現代と全く変わらぬ世界におけるアメリカという国の強引な正
義(と言うより傲慢さ?)が垣間見えるし、放射帯の発生の科学的な説明も
ないし、登場人物たちの行動原理もよくわからない(特に、ジョーン・フォン
テーン扮する精神科医のサボタージュ)。一言でいえば、脚本に強引なと
ころが多く、実に杜撰。
では、観るに堪えないかというと、全くそんなことはない。脚本の杜撰さを
感じる暇を与えないように(いや、まるで、その杜撰さを詫びるかのように)、
アレンはスピーディに話を運び、徹底的に楽しませることを忘れない。何よ
り、少年時代に誰もが一度は夢想する海底での大冒険譚を、趣向を凝らし
た特撮による映像で観せてくれるのが実に楽しく、嬉しい。海底(海洋)冒
険ものでは、暗い海底の岩陰から大イカや大タコが出てきて襲いかかるの
が、いわばお約束になっているが、その両方を登場させるのは、本作ぐら
いしかないのではないだろうか。そればかりではない、行く手を阻む、海底
を覆い尽くす機雷、核ミサイル発射の息詰まる攻防など…次から次へと手
に汗握る見せ場を用意するあたりは、アレンのショウマン・シップ、サービ
ス精神ここにありといった感じだ。
ウォルター・ピジョンの厳格ながら、ちょっと浮世離れした感じの提督ぶり
も良く、相棒のピーター・ローレも、ほとんど『
海底2万マイル [DVD]』の役
柄のイメージをそのまま再現している感じで、別の作品で出来あがってい
るイメージを巧みに再利用するという、抜け目ないアレンのキャスティング
が効いている。密室、かつ男臭い空間の中での、フォンテーンとイーデン
の旧新女優の対照的な美しさもいい。
『海底2万マイル』、『
戦艦バウンティ号の叛乱 [DVD]』、『
渚にて [DVD]』
などの面白いところを少しずつ取り入れて、独自の見世物としての楽しさ
を加味したアレンらしいSF冒険活劇だ。
本DVDは、35mm原版からテレシネ、レストアされたマスターを使用した
もの。キズなどはきれいに取り除かれ、色調も実に鮮やかな画質。ヴィデ
オ、LDに比べると格段に画質が向上している。残念ながら、2007年に米
国で発売された”Global Warming Edition”に収録のコメンタリーやドキュ
メンタリー等は、すべてなし(日本盤は、米国で2000年に発売されたもの
がずっと再プレス、流通)。これらの豊富な特典が日本盤に収録されなかっ
たのは、おそらく権利処理的な理由ではなく、字幕制作などの実務的作
業、コスト的な理由によるものだろう。この手の特撮ものには、特典は不
可欠だが、予告編(4:3レターボックス)のみ収録では、あまりに寂しい。
その点で、星一つ減点。