タイやタイ語や東南アジアに興味があるので、見た中の1本。
映画で話されるタイ語が聞けるという以上の興味はなかった。
浅野忠信がベネチア映画祭でコントロコレンテ部門主演男優賞をとったことや、
ロードショー公開時の宣伝フライヤーなどは見ていたけれど、特に期待していなかった。
ところがこの映画、じつによくできた現代的センスを持った良品だった。
よくあるようなPV的な無意味で不快なだけの編集や、カメラアングルがない。
どのショットも安定していて、冷静、知的。
考え抜かれた音楽や効果音は、それ自体で一つの独立した世界を作り出している
(見終わった後にいちばん残っているのは、この不思議な音像効果かもしれない)。
整理しつくされた画面や、説明的なカットや情緒的な湿度を排した世界(特に突然始まる暴力)、
時間軸を飛び越えて前後する編集などは、初期北野作品を直接思わせるが、
それは芸のない模倣というよりは、驚きであり、好ましい。
蒸し暑く、雑然としたバンコクの街や、タイの風俗が、低い温度でドライに画面に定着されている。
それだけでも見る価値がある。主演女優が話すタイ語訛りの英語は、タイ語よりもタイを感じさせ、楽しい。
映画に対して真正面から取り組んでいることが伝わってくる。
初期ウォン・カーウァイ作品の飛び跳ねるようなカメラワークが印象的だったクリストファー・ドイルは、
ベッドにおかれたスーツケースひとつを撮るだけでサスペンスを成立させてしまうほどの
緊迫感のある画面を生み出している。
映画を見ながら『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』という小説のタイトルを、ずっと思い出していた。