黒沢清監督のフィルモグラフィを見てみると、それぞれの作品で全く違ったことをされていることが分かります。しかし、全ての作品で共通して描かれているものがあります。それは人間という存在そのものの恐怖です。よくいわれる「ホラー映画」は見ていて怖がらせてくれるもの、楽しいものですが、黒沢監督の映画はそのような分類をするべきではないと思います。『地獄の警備員』はそんな黒沢監督の初期の作品です。はっきり言ってものすごく「怖い」です。私は最初は「地獄の」という形容詞は松重豊さん演じる「富士丸」にかかるのかなと思って見ていましたが、見終わると、それが「曙商事」にもかかるのではないかということに気が付きました。つまり、富士丸は地獄からやってきたような恐ろしい殺人鬼であり、その富士丸はまさに地獄のような場所である曙商事の警備員である、という意味です。成島秋子達は二つの地獄にさいなまれる訳です。ああ、なんてかわいそうなの、と思うだけでは済まない何かがあります。この映画の外の自分の現実も地獄なんじゃないか、といった重い感覚がのしかかってきました。何といっても「配電盤」や「換気扇」がものすごく怖い。思わず叫びたくなってくるような怖さです。なぜ人間はこんなものを作ってしまったのだ、そも人間とは何ぞや・・・。この初期の作品から完成されたものを作っておられる黒沢監督には脱帽です。黒沢作品を見る上で絶対にはずせない一本だと思います。