小さなプロダクションの助監督がロケハンをしている間に、不思議な人物に出会います。国土地理院の発行による大判の詳細地図を携えていて一年中同じような服装をしているのですが、それなりに身ぎれいにしているし、それなりにコミニケーションもとれるのでホームレスではないらしい。助監督があちらこちらで出会うのも不思議なのですが、びっくりするのは助監督が探しているような光景の場所を聞くと、それが都内であれ、地方であれ、たちどころに候補を10箇所くらい挙げてくれることです。しかしもっと不思議なのはその地図帳にベタベタ付箋が貼ってあって、その場所に因む長編やら短編の物語が書き込まれているのです。
三つの新人賞を総なめしたという作者の話題性にひかれて読みましたが、ウーン、いまいちかなという印象です。確かに冒頭紹介したような設定は少しカフカ的で新人賞向けの斬新さはありますし、この地図男が書いた物語に出てくる主人公達、頭に浮かぶまま作曲できる天才幼児、いろはかるた取り対決など不思議な23区対抗戦に出場してくる達人たち、メインエピソードになる恋物語の主人公、暴力的な衝動をもったムサシと常に体を動かしていないとならないアキルなどもそれぞれにカフカ的な不条理を背負った人物が造形されています。しかもそれらの独立したような物語が実は接点を持っていて、さらにこれらの物語と作者の地図男の接点の謎を読者となった助監督が解き明かそうとする複雑な構造で、このあたりが真面目な新人賞審査員の評価をあげたのでしょうが、私達きままな一般読者からすれば、少し向こう受けを狙い過ぎという印象がありました。