この映画の原作長編「白昼の悪魔」は、イギリス南西部にある陸と渡り道で行き来のできる海辺の小島を舞台とした作品であり、地中海とは縁もゆかりもない作品である。この映画の原題も、原作と同じ「白昼の悪魔」なのだが、「白昼の悪魔」の原型となった短編作「砂に書かれた三角形」の舞台がロードス島であった関係か、この映画では地中海のマジョルカ島でロケを行っており、これが「地中海殺人事件」という耳障りの良い一般受けする邦題に繋がったようだ。
さて、EMIのポアロ物第三作であり、最終作でもあるこの映画には、原作と比べると、二つの特徴がある。
一つは、前作「ナイル殺人事件」に引き続き、アンソニー・シェイファーが脚本を担当していることから、前作同様、原作の主な登場人物三人をカットして物語の簡略化を図り、カットした登場人物に割り振られていた役どころの一部を残った登場人物に取り入れるとともに、残った登場人物の人物設定自体も、大幅に変えていることである。
二つ目として挙げられるのが、原作では、殺人の動機がある者を絞り込んでいるのだが、この映画では、チャプター・リストのメニューに人物相関図を用意しているほど、主な登場人物全員が被害者に恨みを持ち、殺人の動機がある設定としているところだろう。
原作では、殺人の動機がある者を絞り込んだ分、トリックの設計が緻密にできているのだが、映画では、総花的に殺人の動機がある者を広げすぎた分、伏線を張る時間的余裕がなく、エディターレビューにもあるように、犯人探しの底が浅くなってしまった感は否めない。原作に、一日の長ありである。