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地下室の手記 (新潮文庫)
 
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地下室の手記 (新潮文庫) [文庫]

ドストエフスキー , 江川 卓
5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (39件のカスタマーレビュー)
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登録情報

  • 文庫: 216ページ
  • 出版社: 新潮社; 改版 (1969/12)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4102010092
  • ISBN-13: 978-4102010099
  • 発売日: 1969/12
  • 商品の寸法: 15 x 10.6 x 1 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (39件のカスタマーレビュー)
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34 人中、32人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
地下室にこもった男がぶちまける手記という形をとった、19世紀のひきこもり文学。

ドストを読んでいていつも驚くのは、この弁舌、人の心の描き方。
ここまで激烈でなくても、主人公のような心情におちいったことのある人間は、けっして少なくないだろう。
ニーチェや太宰と同じ系統の、非常に感染力の高い本だと思う。

主人公ネクラーソフ(名前までが冗談めいている)は、激烈な自尊心と、同じくらい激しい自己卑下の心を持ち、世界と相容れない理由を必死に弁明しようとする。
世界が悪いのか、自分が悪いのか、それともどちらでもないのか。
この、誰でも一度はぶつかる壁に、本書はひとつの思考の結末を提示している。
世界は悪い、自分も醜悪、だからひきこもる。

人間は矛盾に満ちている、という話。
2+2=4の世界に怒りをぶつけ、醜悪さを露呈したがるその心。

「自分が茶を飲めるならば、世界など破滅してもかまわない」という、ある意味極論の名言が印象的な本。
ドストの作品の転換点と言われる本書は、ドストの歴史の中の位置づけから見てもおもしろいが、単体のひきこもり文学としても、じゅうぶんに読む価値がある。
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40 人中、35人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
私はこの小説の内容を、以下に紹介する文章以上に的確に表しているものを知らない。それはこの小説の出版より15年も早く書かれた、キルケゴールの著作の中に見られる。

「……この絶望は、人世を憎悪しつつ自己自身であろうと欲するのであり、自分の惨めさのままに自己自身であろうと欲するのである。

この絶望は、反抗して、あるいは反抗的に、自己自身であろうと欲するのでもなく、反抗のために自己自身であろうと欲するのである、それは自分の自己を、それを措定した力から反抗して引き離そうと欲するのでもない、それは反抗のためにその力に迫り、その力に挑戦し、悪意をもってその力にしがみついていようと欲するのである……それだから、彼は自己自身であろうと欲し、自分の苦悩をひっさげて全人世に抗議するために、苦悩に苦しむ自己自身であろうと欲するのである。」
(『死に至る病』第一編最後の2頁より)

この小説は、ただの負け犬の言い分を描いたものなどではない。ここには神学論議にすら発展しうるだけの深刻な問題をも含んでいる。主人公はそもそも、いわゆる世間的な「成功」といった価値を信じることができない人間なのだから、「負け」も「失敗」もない。いみじくもキルケゴールが言ったように、「反抗」以外に何も持たない人間なのだ…。

…このように書くとこの小説のことをムズカシク感じてしまうかもしれないが、そう気構えて読む必要はまったくない。ドストエフスキーは芸術家としてもやはり超一流なので、まずはこの作品をどっぷりと味わって欲しい。前半部の、五十頁にわたって綴られている主人公の独白は、人によってはやや退屈に感じるかもしれない(だが内容は興味深い)が、後半部の回想話におけるドストエフスキーの筆致は凄まじく、私は初めて読み終えたとき、この迫力ゆえにただただ呆然としてしまった。ぜひぜひ一読を薦めたい。

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6 人中、6人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By イッパツマン トップ500レビュアー
 この作品は、空想的社会主義運動からシベリア抑留を経て、インテリの自意識による社会革命の不可能さを徹底的に思い知らされたドフトエフスキーが、素朴なヒューマニズムからキリスト教的大作へ転向する端緒になった作品として位置付けられている。

 さて、カミュは「シーシュポスの神話」において、最後の最後でキリスト教的救済と一体化する点で、ドストエフスキーの文学は不条理になりきれていないとして批判している。カミュにとっては、優れた作家というのは「世界」との絶え間ない軋轢に負けず、かつ恋焦がれながら一体化を拒否し生命を消尽するような、殆ど永劫回帰(ニーチェ)な運動を語る存在だった。そういう意味では、カミュのドフトエフスキー解釈は多分正しく、彼が批判したキルケゴールやハイデガーにある宗教性に共通する意識の跳躍・高揚から逃れられてはいない。

 ところが、上記のように転換点として位置付けられる本作品の場合、宗教的救済が全く描かれていないのだ。(どうも検閲の結果らしい。)肥大した自意識を持つ貧しきインテリの主人公が、ひたすら周囲と軋轢を持ちつつ悩みながら、最後は半ば狂気に犯されつつ自閉していく。ステレオ・タイプな引き篭もり論と関連づける読解が珍しくないことも頷ける展開だが、そこには救いも何も描かれていない。有名だけど、ドフトエフスキーとしては珍しい作品なのかもしれないですね。

 星の採点が辛い理由は、この主人公の悲喜劇的な自意識の肥大っぷりが単純に鼻についたからです。現代日本でも十分読むに価する作品だとは思っています。
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