実に面白かった!
世界中を実際にあちこち歩きまわり暮らしてきた著者の、とにかくおいしいものはどこのものでも偏見なく食べてきた体験ならではのエッセイ集。
といっても、話は「うまい、まずい」にとどまらない。食べ物の裏にある様々な世界像や偏見を見抜き、白人文化中心主義を喝破し、色眼鏡抜きで「結局はその土地にはぐくまれた食べ物が最高」とばかりに、それを愛してきた人々と文化まるごと、食べて体の一部とする。
そして地球全体を股にかけた文明論でもある。(といっても、まったくおおげさでない。飄々とした持ち味は彼女ならでは)
4つの章にまとめられたエッセイは、おおざっぱにテーマを分けている。雑誌の掲載時からはずいぶん加筆訂正もしているようだ。
『スパンコールの海』では、カリブ海の島々を訪れたときの記憶である。落ちている木の実を拾い食いし(おいおいと突っ込みを入れた)取材に行った先の作家の手料理を作らせてはおかわりし(またおいおいである)じつに天真爛漫で、よく食う。
この人がうちに来たら困るな。しかし、あまりにうまそうに食うからその笑顔に負けておかわりつくってあげるかな。
『探検家の食卓』は、なかなかにエキゾチック(笑)な食べ物の考察である。「パンの木」に関する記憶は、私も著者と同い年なのだけれど、子どもの頃似たようなことを考えていたので笑えた。
虫、人食い(!)、缶詰に関する節も大変おもしろい。「へえ!」「なんと!」の連続。
『記憶の皿』の章には、彼女の子ども時代の記憶が。詩のように美しく、著者の新しい面を垣間見た(著者は詩人でもあるのだ)。そして、著者を支えている根っこはやはり子ども時代の、体全体の記憶なのだと思った。
鯨に関する考察は、穿ったものである。外国暮らしをした日本人はほぼ、「お前らは鯨を食う」と議論をふっかけられた経験があるのではないだろうか。また「みそや問答」は個人的に一番スキな節で、何度も吹き出した。
『国境の匂い』は、文化論でもあり文明論でもある。著者の実際に見てきた世界、出会った人々、本の中で記録に残った世界。様々なものが縦横に織り上げられて、面白いと同時に、今の地球全体のことを考えさせられる。
あとがきでも著者本人が書いているが、はじめの方と後の方では、少しトーンが違っている。2011.3.11の日以来、自分がどういう立場でこんなエッセイを書いていいか。考えた末の事であろう。掲載の時系列そのままにこの本に載っているわけではないが、はじめの方のお気楽な幸福感に満ちたものから、次第に「食べること」「生きること」への問いも含まれていく。
あとがきが、またよい。胸に響いてくる。
難を言えば、著者があまりに世界中のあちこちに行っているので初見の人にはびっくりされてひかれるかも(笑)
そういう人は、ぜひ著者の別の作品も読んでみてください。
事情がわかれば、なるほどとおもうでしょう。