神護寺の「薬師如来立像」を、土門はこう語っている。
「飛び立とうとして飛び立たず、叫ぼうとして叫ばず、動と静の矛盾する要素を一身にもって、
高雄山中奥深き黒漆の厨子の中に、薬師如来は直立している」
土門拳の撮る仏像には、「気」がある。
それは、御仏を、作り、縋り、敬まった、古人たちの信仰の光芒でもあり、
実際に仏像と向かいあった事のある人ならば誰でもが感じた事のある、あの御堂を満たしている空気感だ。
この「京・洛北から宇治へ」では、北は高雄、鞍馬、南は宇治まで、京都の名だたる仏像・寺院を恐縮し収録している。
有名どころでは、国宝第一号の広隆寺の「弥勒菩薩半跏像」や同寺「不空羂索観音菩薩像」、三十三間堂の「千体千手観音立像」、
平等院の「阿弥陀如来座像」並びに「雲中供養菩薩群像」、東寺の「五重塔」「梵天座像」などで、
私たちが一度は目にした事のあるものが、土門独自のクローズアップという表現で、新たな一面を見せてくれる。
否応無く古都に思いを馳せたくなるこの一冊に、私もまた、本を手に取って程なく、京都に走った。
この小さな文庫本は、古寺巡礼をする人々にとっては、ガイドブックとは異なる一つの手引きと成り得るだろう。
また、仏教美術や建築に傾倒する者には、新たな「視点」の発見になるのでは、と思われる。
同シリーズの他3冊も是非、手に取って頂きたい。