司馬遼太郎自身も断っている通り,彼は土地問題についてあまり詳細綿密な知識はもっていないと思われる。よって専門的な議論は本書には期待できないが,司馬以上に門外漢の私にとっては却って本書を通じて土地問題を身近に感じることが出来た。
ちなみに私はドイツ在住8年になるが、日本に帰国する度に西ヨーロッパ諸国と日本は同じく先進国といわれながらなぜこうも景観の美しさに差が有るのかとショックを受けずにはいられない。実際,日本の景観が美しくないということに,日本人なら誰でも悲しみを感じているのではなかろうか。「あとがき」にも例として駅前商店街の町並みの汚さが言及されているが,法的,政治的,経済的な議論よりも、むしろこういう点にこそ土地問題の本質があるように思われる。
emir1969氏の評価は的を得ていると思うが,私は司馬が「歴史小説家」としての地位に安住せず,あえて巨匠らしからぬこの「悲鳴」のような問題提起を行ったことを評価したい。