原文はおそらく100ページ以下でしょう。このビギナーズ版には、現代語訳、詳細な解説、時系列的な旅程、そして地図が含まれています。古典につきものの註はありません。ゆっくり読んでいって5時間くらいでしょうか。しかし、これだけの助けを借りないと、この作品の持つ様々な魅力と背景をもはや理解できなくなっているというのは悲しい現実です。そしてお恥ずかしいことにいくつもの発見がありました。
その魅力は多面的です。まず、純粋な55日間の旅行記としてその旅程をたどってみる。その寄港地には今は関空の近くの泉大津や堺、住吉大社も含まれます。もっともその半分近くは、天候と海賊を避けるため、港への逗留に費やされてしまうのですが。
次には、「女性」という作者に仮託されたコスプレ作品として。案外この仮構の巧みさと時々あわられる破綻ときわどい逸脱を楽しむのが今の読み方なのかもしれません。全編に織り込まれた和歌は、わかりやすいものから、けっこう手が込んでいて解説が必要なものまでいろいろです。
三番目には、当時の国司を取り囲む人間関係の解説書として。この世界はいつもながら現実的で、その理解も詳細な解説に負うところが大です。
船をやっと降りて憧れの京都にたどり着く最後は複雑な場面です。最後の詠嘆、「この家にて生まれし女子のもろともに帰らねばいかがは悲しき」はこの作品のもう一つのモティーフを示すものでもあります。