このDVDは、1991年10月7、8日に放送されたNHK特集「国際スパイ・ゾルゲ」前後編を一本に纏めた物で、旧ソ連の崩壊直前に起きたクーデターの2週間後にソ連軍参謀本部とKGB本部を訪れたNHK取材班が、新たに公表された機密資料を基に構成されたドキュメンタリーである。
前編は、1933年のゾルゲの日本侵入、ドイツ大使館で駐日ドイツ大使オイゲン・オットから信頼を得て拡大する諜報活動、ゾルゲの生い立ちと第一次世界大戦を経てドイツ共産党へ入党の経緯、そして独ソ開戦までを描く。
後編は、ゾルゲのソ連における生活とスターリンによる粛清。それにより次々失われるゾルゲの関係者たちの命。ゾルゲによるドイツの対ソ侵攻作戦の警告を無視するソ連上層部、独ソ開戦後、崩壊の危機に瀕したソ連軍は新たな緊急指令「独ソ戦に対する日本の方針を探れ」が、送られてくるが…。
山崎勤氏のナレーションとパトリック・オーハンのBGM、そして既に鬼籍に入った関係者の貴重な証言が盛り上げるドキュメンタリーは、放映から20年後の現在でも面白く感じる番組である。
だが、リヒャルト・ゾルゲに関する深い知識を有しない浅学薄才の徒である評者だからこそ、そう感じるのかもしれないことを予めお断りしておく、例えば専門知識を有する人の評価は、以下の通りである。
「クラウゼンは来日後、東京の電気屋や金物屋を歩き回って、部品を買い集め、密かに高性能の無線受信機を作り上げた。それは真空管やコイルを取り外すことができ、スーツケースに入れて持ち運ぶことが可能だった…」
『国際スパイ ゾルゲの真実』(角川文庫)それに対する専門家の意見は、
「もっともらしく聞こえるが、これは素人が想像で書いたフィクションである。ラジオ屋を歩いたって送信機は作れない。(中略)当時の部品専門店は特別なのである。」
『真空管の伝説』 (ちくまプリマーブックス)86P)
とバッサリ切り捨てられており、様々な専門家が本作を精査した場合の品質は、保証しかねるのが、正直な評者の感想である。
また、番組冒頭で「ゾルゲの活動には多くの謎がある」とのナレーションが入るが、ゾルゲ事件の最大の謎である逮捕に関する情報も「日本人関係者の逮捕により」と、多少触れた程度で謎のまま終わっている。これは、日本のとある政党の暗部を直撃するタブーであるため、無視したと思われる。この謎に関しては、
『太平洋戦争情報戦』―写真構成 (別冊歴史読本永久保存版―戦記シリーズ (第65号))に興味深い記事があるので、是非ご一読いただきたい。
本作品の評価は、番組としては面白いものの歴史の闇に触れるには、まだ今一歩ということで星4つである。