なぜ住所が変わるたびに市役所に行き、警察署に出頭し、銀行に行き……全部出向くのが実に面倒だ。一度行けば片付くようにならないか。何か役所に申請するときも、あちこち書類を取りに回るオリエンテーリング状態。実は先進国の多くでは、国民ID制度が整っているため、オンラインで一度申請すれば、大方の公的証明証は書き換わってしまうらしい。日本も電子申請でずいぶん盛り上がったが、結局紙でやっていることをパソコン上に置き換えただけで、添付する必要書類は足を使ってかき集めてこないといけないなど、本質的な電子化とは程遠い。本書を読んでいて、戸籍謄本みたいな自分の証明書類を金を出して頂戴する日本の制度がバカバカしく思った。ID化すれば、カードの中に情報があるから紙は不要なのだ。
本書はIDカード社会がいかに便利であるかを説明する。健康保険も納税も運転免許も銀行口座も診察も年金も、国によっては鉄道切符もすべて国民IDカードで事足りてしまう。何か申請したい時は、ネットで自分のIDとパスワードを打ち込めば、マイポータルサイトから申請できる。申請後は行政担当者がIDに入っている必要事項だけ取り出して確認すればいい。また、ネット環境になくても、役所に行って担当者にIDを出せばいいから、書類オリエンテーリングをしなくて済む。
技術者らしく、「情報漏えいを防ぐ完璧な方法はない」という。ただ、ICチップをつけたり、自分で自分へのアクセス情報が見られるようにすることで防護の強度は高まるという。先進国の多くで、大規模な漏洩なく運営ができているのが何よりの証拠だろう。「1984のように役所に監視されるのではないか」という不安には、役所は自分の必要な情報しか見られないようなアクセス権限を付与すればいいのではないかという。日本は役所同士の連携が低いために、書類オリエンテーリングのために、非生産的な時間を費やしている。こんな便利な社会に反対する人はまだ多いけれど、介護保険とかなんだとか始まれば、またタンスの中にカードが増えていくことになる。