これほどわかりやすくデリバティブと国債について書かれた本はいまだかつてないでしょう。おかげで、日本とアメリカ、そしてEUをとりまく金融危機の本質がなんなのか、すっきり判明しました。
デリバティブといえば、日本では日経平均先物(株の先物)や国債先物売買が代表的ですが、世界の金融資産は自分が売買しなくても投資銀行やヘッジ・ファンドによるデリバティブ売買で年4回転しています。この15年間、明らかに先物とオプション取引が現物の金融資産の価格をリードしてきました。21世紀の金融はデリバティブ売買が中心です。デリバティブが金融バブル勃興と崩壊、そして乱高下を引き起こしているのです。
現物取引なら価格変動幅は半分くらいしかありません。シカゴの株価ボラティリティ(平均価格に対する変動幅の平均)など標準偏差に過ぎません。石油などの商品先物が売買される資源、穀物、食品も同じです。
原油も90年代の1バーレル15〜20ドルから30ドルに上がり、07年夏には140ドルの頂点に昇って、その後、70〜100ドル圏内を乱高下しています。実際の需給増減だけならこんな非合理な値動きはしません。金価格も2011年はヘッジ・ファンドの先物買いで00年の1グラム1000〜4500円付近まで高騰しています。高騰した原油と金の価格は基軸通貨である米ドルの価値の下落をシンボリックに示しています。
デリバティブ取引は伝統的な現物証券の売買に対してエキゾチック金融ともいわれますか、世界の金融機関やヘッジ・ファンドを「シャドー・バンク(影の銀行)」とも言われています。密室の相対取引ですから、バランス・シートにもあらわれにくいからです。
デリバティブ取引の金融資産や証券(原資産)は途方もない金額(5京6000兆円ほど)ですが、世界の金融資産はそんなに多くありません。名目金額で1京5000兆円くらいでしょう。金融資産の元本すら知らないうちに、金融機関やヘッジ・ファンドはデリバティブで運用と売買(たとえば日経平均の先物取引)されていることが少なくありません。
彼らは先物取引やオプション取引を行っています。外国人投資家は国債の先物やオプション取引で日本国債の売買市場にいくらでも参加できます。当然、日本国債の価格も動かせるのです。2010年のはじめから先物が売られ、CDSが金融機関からたくさん買われ、PIIGS債の価格は暴落しました。PIIG債の先物の売りもその国債を保有しているかどうかとは無関係におこなえるのです。実際、海外のヘッジ・ファンドや投資銀行は日本国債をもっていないからこそ、逆に利益機会が来つつあると判断することもできるでしょう。合計で14兆ドル(1120兆円)にのぼる損失は、欧米の大手金融機関やSIV(投資子会社)とヘッジ・ファンドの時価評価されていない貸借対照表のどこかに眠っています。
世界のGDP(国内総生産)は日本の10倍ですが、欧米が抱えるデリバティブの含み損はGDP対比で日本の90年代の不良債権を超えています。この含み損が重くのしかかっているから、日本が塗炭の苦しみを舐めた「失われた10年の往復」よりもはるかに厳しい茨の道を欧米の政府と金融機関は歩まなければならないのです。
いま、欧米の金融は政府と中央銀行が400兆円規模の公的資金(3年間)を投入することでなんとか生きながらえています。拡張した政府予算をそのままにしておけば国家財政が破綻してしまいますから、いずれ清算しなければなりません。先送りできる時間も資金もすでになくなっている、というわけです。
金融経済分野で、アカデミックなくせに、わかりやすく、現場を見据えた傑作が登場したのは久しぶりではなかろうか。430ページもの大著がまったく気にならないほど論旨展開が明快。