“突破者"宮崎学の研究会で“外務省のラスプーチン”佐藤優が講師として語った「ソ連崩壊の分析と政治ドラマ」。佐藤氏はいわゆるノンキャリア官僚で同志社大学大学院で神学を修めた異色の外交官ながら、ソ連の政界に深くネットワークを築き上げ、幾多の有力な情報をもたらしたのにもかかわらず、いわゆるムネオ・バッシングに連座して逮捕・勾留され現在は休職中。ただしこの逮捕は依然正当性が疑われるところ大であり、そこに「キツネ目の男」に疑われた宮崎氏が共感を得たであろう事は容易に想像できる。
本書が秀逸なのは、外交官・学者としての思想・政体の構造分析にとどまらず、ロシア人と人間としての交流による本音・心情・事実を裏付けに織り込んでいる点である。人間ドラマとして非常に面白いのは、田中角栄の秘書官だった早坂茂三氏の著作に通ずるものがある。
特に、理念だけでソ連を改革しようとしたソ連初の大卒指導者ゴルバチョフと、建設労働者からコツコツ出世したエリツィンの「ロシア大衆観」の相違が、その後の二人の運命を分けたというくだりは深くうなずけるものがあった。(理念だけの現実知らずという点で小泉首相がゴルバチョフと共通だとする宮崎氏の解説はこじつけの感があるが)
政治問題・国際問題に強い関心がある向きだけではなくとも、大変面白い本である。特に、アメリカと中国という21世紀の二大覇権帝国に挟まれた日本は、ソ連崩壊後ユーラシアにアイデンティティを求め始めた資源大国ロシアとの関係をどのように考えていくかが今後重要なポイントとなっていくであろうから。
それにしても(その著作を読む限り)これほど憂国・真摯な外交官はいないと思われる氏のような人間を、いまだ休職中扱いにしている日本国外務省というものはどのような組織であろうか。自ら辞表を提出しているわけではない(その気になれば大学教授やCIA!などいくらでも職はあると思うが)氏は、もう一度国のために役に立とうと考えているであろうに。