田中真紀子外相(当時)には「伏魔殿」と謗られ、かつてペルー大使館人質事件では青木大使のお殿様的なゴーマンな態度に驚き、01年には元要人外国訪問支援室長のノンキャリ職員が5億円超の機密費を私的に流用し競走馬まで購入していたという外務官僚。キャリアは特権に胡坐をかき、ノンキャリアはキャリアにいじめられる。
テリー伊藤氏の
お笑い外務省機密情報にあったように、どうも一般国民のイメージは良くない外務省であるが、薮中氏は東大ではなく阪大から当初「専門職」(いわゆるノンキャリ)で入省、後にキャリア試験に合格したという経歴のごとく、親子代々外務官僚というような特権意識も少なく好感の持てる外交官である。
対米貿易交渉、日本外交の弱点、本人が陣頭に立った対北朝鮮交渉、アジアの中の日本。ポイントポイントが平易な文章で、現場ならではの具体性を持って迫って来る。ただし、本人も書いているようにいわゆる暴露的な内容ではない。
国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)のような、生々しさ、荒々しさはない。大学のサブテキストにも使えそうな上品さである。
本書を読んで感じたのは著者も嘆いていることであるが、日本が大局的な国家観に欠けること。これは自民党から民主党になって更に悪化している気がするのだが、韓国のように国のビジョンを示して外国に対し交渉していくという感覚がない。TPPには参加したいが農産物輸入はダメ、というような総論賛成、各論反対ではますます水を開けられてしまう。これは各省庁の思惑が違うからでもあるがそれを束ねる政治の力が弱い。
また日本のメディアが外交交渉の邪魔になっていることも嘆いている。対米交渉では日本に不利になるような報道でアメリカを煽ることまでされ、対北朝鮮外交でもバッシングばかりではやりにくかろう。
外交官でなくとも参考になりそうな部分としては交渉相手との信頼関係を築くツボとして 1ウソはつかない 2絶対に譲れないことと融通のきくことを分け、優先順位をつける 3絶対にダメなことははっきり言う としている。とかく日本人は情緒的に流れがちなので、ロジックをしっかりすることだ、ともある。「察してくれ」「ご理解ください」ではダメで、これは外交交渉に限らず外国人との交渉には不可欠であろう。ただし北朝鮮には通じないのであるが…
特に対米、対中、対アジア外交がますます重要性を増している現在、日本の進めべき方向性を考える上で参考になる一冊である。