もう25年以上もクラシック音楽を聴いているのに、今なおこんな本が欲しくなる。
古今の指揮者をビジュアルに紹介する初心者向けの本である。「のだめ」や「ラ・フォル・ジュルネ」の人気によってクラシック音楽が大衆化したと言われる今、本書の役割は、この深い世界に初心者を正しく誘うことであるはずだ。しかし、この本は2つの点で失策している。第一は優先順位の恣意性である。カラヤンに始まるのはお約束としても、セラフィンに2ページが割かれ、マゼールやブーレーズが半ページ、というのはどうも解せない。セラフィンは確かに偉大な指揮者だけれども、ラトルよりも、アバドよりも優遇されているのは、この種の本としては構成にバランスを欠くと言わざるを得ない。
第二はもっと大きな問題で、著者のひとりが大指揮者たちを名指しで「無能」「ぼんくら」と貶め、一方自分の気に入った演奏では、やたら「仰天」「卒倒」など大げさな表現を乱発することである。長年聴いている者なら、こんな戯言を無視できるだけの知識もあるし、むしろツッコみどころ満載のトンデモ本として楽しむこともできる。しかし、これはそんな本ではない。著者は本の目的を理解していないし、インパクト狙いの陋劣な文章は、音楽ジャーナリズムを汚すと思う。昨日今日出てきた「評論家」ではないのだ。恥を知りなさい。身の程を弁えなさい。評論家とは、もっと賢明で建設的な人の仕事である。