本書はアニメを全く知らない人にとっては非常に有益だと思う。例えばもしあなたが、原画と動画の違いを知らなかったり、70年代80年代のアニメブームのことを知らなかったり、スタジオジブリという会社が日本のアニメ映画会社で一番売り上げが多いということを知らないなら、買う価値がある。また下請けと元請の違いなどの経済的な基礎知識を知らない中高生にもいい勉強になると思う。
だが少しでもアニメに詳しい人にとっては、残念ながら本書の情報は基礎的すぎる。一番の問題は具体的な情報がゼロということ。私が「業界のカラクリ」という題名から期待していた情報は、例えば過去数年に主なアニメ制作会社(Production IG, Gonzo, Madhouse, ボンズ、京アニ、シャフトなど)について、各会社がどの作品から一体いくらくらい損得したのか、萌えアニメがどう経済を変えたのか、深夜アニメの収益はどうなっているのかなどだったが、そういった具体的な数字は全くでてこない。
約200ページを費やして繰り返し出てくるのが、非常に抽象的なフローチャート図。例を出すと「アニメ制作会社」「テレビ局」「広告代理店」という四角い箱があって、矢印がその間に書いてあって、「テレビ局は広告代理店から番組枠料金をもらう」というような図。いったいどのくらいアニメ制作会社があって、どのテレビ局がいつ、どのくらいのお金をもらうのかといったような本当の情報は全く出てこない。つまり本書独自で調査した情報は全くなし。出てくる情報はメディア白書とかに載ってる非常に基礎的な情報ばかり。例えば「2000年代放映の主なテレビ作品と制作会社」というところには、「京都アニメーション。涼宮ハルヒの憂鬱、らきすた、けいおん」などと載ってるが、アニメを知ってる人には基礎的なことばかり。はっきりいってウィキペディアの方がはるかに詳しい情報が載ってる。
さらに例を挙げると、たとえば第6章の「デジタル化による製作コストの圧縮」のトピックでは結論として次のような文が載ってる。「このように、作品をデジタルデータとして扱うことで、制作コストの低減をはかることができます。」こういう説明は抽象的すぎて無意味。いったいいつ、どの会社がどの作品で、デジタル化でいくらコストを削減したのか? というより削減した時間や労力で、一昔前と比べて描きこみがさらに激しくなって、結局コストがあがってるという可能性はないのか?などというようなつっこんだ分析はなし。
本の題名に「アニメ業界のカラクリ」とあるからには、業界内部からしかわからないような情報をのせて欲しかった。