芥川賞候補作にもなった表題作『図書準備室』、そして新潮新人賞受賞の
デビュー作『冷たい水の羊』の二つが収録されたこの本自体の総合評価と
しては☆3つですが、表題作の『図書準備室』だけだったら☆5つです。
『冷たい水の羊』だけの評価だと☆2つでしょうか。
『図書準備室』は第136回芥川賞候補になりましたが、まったく相手に
されず落選しました。この作品を評価し、推した選考委員は池澤夏樹さん
ただ一人だけでした。山田詠美さんも読み始めた最初の感触では「推して
もいいかな」と思ったそうですが、鶏小屋のエピソード以降を評価するこ
とができないとしていましたが、僕にはそれだけ魅力的な作品だったから
そういう意見も出たのではないかと思います。
この『図書準備室』という小説は、徹底的に主人公の「言い訳」によって
成り立っている小説です。喋る、喋る、最初から最後まで延々と主人公は
あーだこーだと喋り続けます。しかもその内容が凄まじい。これはぜひ読
んでください。本当に凄まじいですから。
そして、最後に置かれている脱力系のオチ。饒舌文体で衝撃的なエピソード
が並べられる中で最後の最後に訪れるオチには笑わせられました。読んでいる
途中はそこまで評価していませんでしたが、読み終わってからは最高に面白い
小説だと思うに至りました。いやあ、あのオチはいいなぁ。でも、このオチ
がなんなのか知っただけでは面白くないんです。あーだこーだと主人公の饒舌
な「言い訳」に付き合ってこそ最後の最後で脱力と笑いをもたらしてくれます。
この小説に芥川賞をとってほしかったですね。
もう一つの収録作『冷たい水の羊』は、作者の新潮新人賞を受賞したデビュー
作です。空気感だけで言えば『図書準備室』に通じるところもありますが、
全体としてはあまり面白くありません。ただ、この作品を読んでから『図書
準備室』を読むと、あきらかなレベルアップを感じることかできて、興味深い
です。
田中慎弥さんには期待です。