梅棹忠夫のモンゴル関連の文章をまとめて一冊にした文庫本オリジナルの編集だ。
『梅棹忠夫著作集』には『モンゴル研究』として一巻があてられているが、よほどのことがなければ参照することはないだろう。文庫本一冊にまとめられた本書で、梅棹忠夫の原点がモンゴル、それも戦前の内モンゴル(=内蒙古)におけるフィールドワーク経験にあったことを実感として確認することができる。
内容的にはきわめて地味な本である。だが、著者の原点がモンゴルであり、遊牧社会でのフィールドワークであることを知れば、「梅棹忠夫の原点」を知るためには、必ずや読まねばならない本であることを悟ることだろう。
じっさい読んでみれば、これがじつに面白い。本書の半分をしめる「回想のモンゴル」は、ある意味では梅棹忠夫の青春記でもある。二年間の徴兵猶予をもらった24歳の動物学専攻の大学院特別研究生として内モンゴル(=内蒙古)に渡ることができた著者の、日本の敗戦によってからくも脱出して帰国するまでの記録である。
内モンゴルに滞在できたのは、隣接する満洲国において日本の影響力が及んでいた期間だけであった。そのため、理系の人間は軍に対して無自覚だなどという批判を、後付けでなす者が少なくなかったらしい。
だが、軍が関与していようがいまいが、貴重なフィールドワークによる研究がなされたことは否定できないのであり、しかも脱出する際には、地図をふくめた研究成果のフィールドノートを用意周到に「偽装」し、日本に持ち帰ることに成功している。運という要素も強かったが、梅棹忠夫の実務家としての能力がきわめて高かったことを示しているいうこともできるだろう。
とにかく読んで面白い本だ。とくに、「モンゴル遊牧図譜」はじつに貴重なフィールドワークの記録であり興味深い。モンゴルや遊牧世界に関心があれば言うまでもないが、もしそれほど関心が強くなくても、読めば確実のその世界を知り、関連する知識の体系を知ることができる。
「梅棹忠夫の原点」を知る一冊として、あらためて刊行された意味は大きい。ぜひ、モンゴルのさわやかな風を感じることのできるこの一冊を読んでほしいと思う。