例えばモーパッサンなどの作家が描く悲劇的・虚無的な人の一生を更に
黒く塗りつぶしたような、完璧に救いのない人生がこの漫画で描かれています。
僕はこの漫画を読み、現在自分が営んでいる平穏無事な毎日がいかに
素晴らしいかを痛感してしまいます(下手な教訓を聞くより、これを読んだ方がよっぽど
効くでしょう)。
この漫画が痛みと共に鮮烈な印象を残す理由、それは巻末の解説で根本敬が
指摘していた通り、作者である山野一が自らの感性を曲げる事をせず
また心の暗部に自然と惹かれていたからでしょう。
劇中、主人公であるたけしが度重なる不幸により精神が破綻しかけている
状態の中で夜中に下水道の秘密基地を訪れ、下水にボルトを
投げ入れながら幸せな生活を思い描くシーンがあります。
闇に寄り添い、静かに朽ちる時の流れを感じる。最も素晴らしく、また唯一
この漫画の中で優しさを感じるシーンです。僕はこの部分の描写に
触れるだけでもこの作品を読む価値があると思いました。