加賀恭一郎が登場する5作の短編集。
短編集としては新参者の方が格段に良かったが、これも楽しめた。
特に「狂った計算」にぐっときた。
私も実家は九州の田舎だ。
田舎出の亭主関白な男は、どうしても素直に表現できない。
染みついた関白ぶりを発揮してしまう。
そういうものであって、何ら悪気もない。
たぶん夫の母親も、そういう風に立ち働いてきたのだろう。
「仕事を残しておいた」というのは嫌みではない。
文体が主人公の女性の独白として書かれているため、
そのように写ってしまったとも読み取れる。
田舎出の亭主関白な男は、独りよがりな愛情に陥る。
ましてや、東京育ちの女性には理解しがたい。
このギャップは相当に大きく、歩み寄りがないままであれば、
決定的な溝になっていく。
この作品は、単なる男女の愛憎劇ではない。
どうしても分かり合えない文化の違いが底流にある。
田舎の雰囲気がよくわかる故に、作者の描く背景が悲しい。
そして、「冷たい灼熱」では、親が娯楽に興じるなか、
子供を車中におきざりにする、近年よくみる悲劇を扱う。
その背景に、満たされない日常生活、互いを思いきれない夫婦の姿が。
「第二の希望」では、“娘のため”との美名の裏に、実現できなかった夢を追い、
結局それが"自己愛"でしかなかった母の姿を追う。
本質は“自分のため”であったが故、娘を裏切って愛人を作る。
そうとは自覚せず、直視せずに。
自分を直視できなかった弱さが全ての因であったことに気づく。
全てに共通しているのは、結局、利己的な自分を直視できず、
不幸が重なりあうというもの。
不幸を生む原因は、自分にもあることを見つめられなかった。
全て犯人の視点で描かれているが、その主観を排除し、
客観視するならそういうことか。
それらも包含して物語を綴る、
東野圭吾は深い人間観を持っているとあらためて思う。
これは作者の力量を知れる良作だ。