西原理恵子の著作を「上京ものがたり」「女の子ものがたり」と読んできて、胸の奥底を鷲づかみにされグイグイ振り回される思いを味わった私にとって、「西原理恵子」「○○ものがたり」という共通単語を持つ本書を素通りするわけにはいきませんでした。
換言するなら、本書の頁を実際に繰る直前まで私は、「西原理恵子の一連の○○ものがたりシリーズの一冊だろう」程度の知識と予測しか持ち合わせていなかったのです。
本書の中に分け入ってみると、最初のうちは「オヤ?」という訝しい気持ちが先行しました。「営業」というのはどうやら西原の著作をもっとヒットさせるための、まさに自身の営業活動を面白おかしく描いたマンガなのです。
私は西原のマンガにはそこそこ慣れ親しんでいるので、この営業活動を描く露悪的・偽悪的な筆致には西原らしさが出ているなぁ、という思いで安心して眺めていられますが、西原をあまり知らない読者には目がまわる思いを与えるかもしれません。
さて、帯には「サイバラ、生涯の最高傑作、「うつくしいのはら」収録!!」とあります。実は私はこの帯に全く注意を払っていませんでした。ですから上に書いたような、露悪的・偽悪的な自身の営業活動の描写が続いたかと思うと、突如としてこの「うつくしいのはら」が登場するととても驚かされます。
わずか12頁の短編で、浦沢直樹の「PLUTO」に寄せた作品と但し書きがあります。ですから私は西原のこの作品には、「PLUTO」が拠って立つ手塚マンガの思想があるように思えてなりません。あの大戦によって大きく傷つけられた手塚は繰り返し反戦の思いを幻想的なSFで描き続けたものですが、西原は同じ幻想的な作風でこの「うつくしいのはら」の中に同じ思いを確かにこめていると感じます。
そして確かにこの作品は多くの読者の胸を突くはずです。この作品を手にするためだけにも本書は「買い」といえるでしょう。