37歳で初めて取得したパスポートとともに、「礼節を重んじるクシャトリヤ(武士)の国・日本」にやってきた著者は、「一切がシステマティック」に整備されている現代日本に面くらい、「正直いって私は恐れた。トイレ1つにもさまざまな操作知識が要求される。日本はインドのように、石器時代の名残をどこにも残していない」と驚きを連発する。物価水準、宗教観、恋愛・結婚観の相違から、インドと日本のカレーの違い、食べ方の違いまで、コミカルで興味深い分析がなされていく。また、当時の日本の世相や流行が、リアルに描かれている点もおもしろい。まだバブル経済の余波で、企業の事業多角化、大小のテーマパークの建設ラッシュ、連夜のハシゴ酒による接待で契約を取りつける日本式ビジネスなどが健在で、女性が都合よく利用するボーイフレンドをアッシー(足)君、メッシー(飯)君などと呼んでいた時代である。
著者の指摘は、表層的な見聞にとどまらない。長い年月をかけて高度な「木の文化」を育んできた日本で、コンクリートジャングルが急速に広がっていることへの違和感、消費の拡大のために若者の興味を優先し、「売る側にはどんどん金が入ってくるが、買う側の精神はしだいに蝕まれていく」過剰な消費社会への警鐘、日本人の欧米崇拝・アジア蔑視の傾向など、辛辣な警告が盛り込まれ、読後にずっしりと重みを残す。著者が指摘する日本や日本人が喪失しつつあるものの多くは、21世紀を迎え、より深刻化しているように思える。(加藤亜沙) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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