1982年に山と渓谷社から出た単行本の文庫化。
戦中から昭和40年代までの日本のロッククライマーたちを取り上げ、その強烈な生き様を描き出した名著。
松濤明、奥山章、芳野満彦、安川茂雄、吉尾弘など、この時期のクライマーには鬼気迫る雰囲気がある。死と隣り合わせで、困難な岸壁に挑戦しては次々と命を失っていく。どこか、みずから死を求めるようなところさえある。それはひとつには戦時中の凄惨な死の体験がある。人間は醜く死んでいくものなのだという思いである。そしてもうひとつには、鬱屈したコンプレックスがある。栄光ある大学山岳部とは一線を画された「町のクライマー」たちは、がむしゃらに登り続けることでしか、自己の存在を登山史に刻みつけることが出来なかったのである。
本書は、そのあたりの緊張感を迫力ある筆致で再現している。スポーツとしての登山、清々しい登山とは、まったく別の世界を見せつけられる。
佐瀬氏の登山ものでも一二を争う名作と思う。