たくさんの「魂の歌」と呼ばれるものを聴いてきたと思う。いろいろなスタイルの音楽を知り、ある意味聴き手としては少し擦れてきているので、「美輪明宏は凄い」「ただ歌の力で感動する」などと様々な前評判を訊いてなお大きく心を揺さぶられることってそうはない。( ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブは前評判なしで観たかった)そういう意味でこのアルバムは凄い。想像はできるんだけど、その表現を前にすると心をごっそり持っていかれてしまう。 本当にただ今は、歌の力だけでほかに何もいらないような、メロディがいいとか詩が共感できるとかそんなレベルでなく、いつも間にか心すべて持っていかれているような、そんな歌が欲しい。 日本のシャンソンの殿堂「銀巴里」にて1981年に行われたライヴを収録した、ライヴ・レコーディング・アルバム。一曲目の シャルル・アズナブール「私は一人片隅で」がいい。初めから心鷲掴みです。これから徐々に激しさを増していくのだけど、静かに歌いつづられる悲哀に、僕の周りには冷たい風が吹く。最後の科白はドキッとします。アルバム最大の圧巻は8)の「ボン・ボヤージュ」です。全編に渡って演劇的空気が漂っていますが、この曲に最も凄まじい激情が渦巻いています。 少女の頃からの一人の女性の生涯が語られていきます。 幸せだった少女時代、愛する人とのつかの間の幸せ、そして金と暴力 ― 転がり落ちていく日々・・・「やめてよ、無理した悲しそうな顔は」とメロディが歌われると、今まで語られていた激情に息を潜めていた感情がこぼれそうになります。この歌では、Bon Voyage(良い旅を)は別れの言葉なのです。 こんな古風な歌が、今でもリアルに、激しく心を打つのは、美輪明宏の全身全霊の叫びだからでしょう。こんなに激しいのに押し付けがましくないというのも驚きです。 そうしてまた別の様々な人生を、様々な場所で演じ続けるのでしょう。