これは、人間として生きる路を取り戻していった男の、悲しくも崇高な物語だ。
ベルリンの壁がまだ残り、東西対立が激しかった頃の東ドイツが舞台。社会主義体制に於ける国家統制が凄まじい中、国家保安局のエリートとして自らが信じる正義と国家への絶対的忠誠心から、人権無視、盗聴工作、ゆすり、強要まで何でも冷徹にこなすマシーンの如き主人公が、反体制的劇作家の諜報活動を行う内に、今まで自身が生きてきた範疇には収まらない芸術家の視点、情熱に心打たれ、“愛”や“自由”の共感者ならんと欲し、一線を越え、それに殉じる事も厭わないと覚悟し行動する。
とにかく、主演のウルリッヒ・ミューエが素晴らしく、一線を越えた後の彼の感情の揺らめきを極力抑えた演技に、一瞬たりとも目が離せない。劇中2回起こるクリスタとの“対面”シーン。1度目の自暴自棄な彼女を慈愛を以って諌める優しさと、2度目の対峙での名作「離愁」を想起させるその確信犯ぶりを見て欲しい。
そして、最後の最後に待っている静かなる感動。今まで浴びるほど映画を観てきた者にとっても、これほど鮮やかで見事な幕切れには滅多に出会えない。黙々とその行為への代償をこなして日常を生きる主人公の10年の歳月とその思いが伝ってきて、恥ずかしいけど涙が止まらなかった。
実は、既存DVDも、BOXDVDも購入しているが、今BD予約を機に、仲間内でシュアリングしてもらった後、ある施設と学校へ寄贈した。
今作は、少しでも多くの人たちの眼に触れて欲しい。そんな思いに駆られる静かなる感動作、BDとして廉価化されたこの機に、是非お薦めしたい。