雑誌「世界」に「脳力のレッスン」として連載中の時評エッセイの単行本化3冊目で、2007年12月号から10年9月号までの分を纏めている。この間は、国際的には100年に1回の世界同時不況、イラク・アフガンの混迷とオバマ大統領誕生、国内的には60年ぶりの本格的政権交代、続いて鳩山政権迷走の時期にあたる。
第1章「いま、時代に主張しなければならないこと」は、特別編として通常月より長めの論考3篇が収められており、いずれも読み応えがある。9・11以降「アメリカについていくしか仕方がない」と思考停止に陥っている日本の外交姿勢を鋭く批判するとともに、日米同盟・基地の再構築について具体的提言を開陳する。 第2章「問いかけとしての戦後日本」では、団塊世代の著者が自身の人生経験を交えて述べる。米国製TV映画から刷り込まれたこと、映画「ゴジラ」と核問題、歌謡曲の変遷等は、著者よりやや年長の評者にとっても、なつかしく興味深かった。またミーイズムに走り拝金主義に染まった団塊世代は、最近の若者の不気味な犯罪に見るように次世代をきちんと育てなかったと自戒・指弾する。 第3章「世界潮流の静かな変化を見抜く」では、米国一極支配から多極化を経て無極化へ向かう国際情勢を論じ、第4章「時代認識を深める視座」では、これからの日本を考えるいくつかのヒントを提起する。
本書は雑誌連載だけに若干の重複はみられるが、論旨は一貫しており主張にブレはない。これは、1つには著者が歴史軸(歴史から学ぶべきものを学ぶ)と空間軸(世界各地に定期的に出掛け人と会う)をしっかりと持ち、自身の頭で考え抜いていることによろう。いま1つは、主要な統計数値(貿易総額の国別比率等)をリアルタイムで検証・確認しており、数値で語る直近の大変化の記述は説得力に富む。
混迷の時代に脳力(物事の本質を考え抜く力)でもって時代と向き合うことの大切さを、改めて痛感した。