著者とオオカミの約10年にわたる共同生活の様子と、そこから様々な考察を生み出し議論を展開していく哲学者の本です。先ず何よりも単純にこのオオカミに魅了されること間違いなし!子供の頃はひたすら愛らしく、大人になってからは凛々しく逞しい。その一生を貫く存在感の強さ、美しさには、現代人の失いがちな気高さを感じずにはいられないでしょう。
読み物のような語り口なので、敷居の低い読みやすい本だと思います。所々哲学の深みに入っていきますが、多くは著者とオオカミの生活の魅力的な描写になっていると思います。哲学者という職業も手伝ってか、自らの生活や内面的葛藤を赤裸々に記述している箇所も多々あり、オオカミに対する絶大な愛情の合間にも、著者の人生に対する真摯さを感じられると思います。
この本の中で著者は、人間の中にサル的部分とオオカミ的部分を見出しています。それがこの本の目玉だと思います。サル的な計算高い要素と、オオカミ的な芸術的要素、とでも言いましょうか。文明と野生、陰と陽、何でも良いと思います。著者はオオカミにどっぷり浸かって10年以上過ごしますが、その中からオオカミのありのままの生き方に感銘を受け、サル的過ぎる現代人をハッとさせるようなメッセージを沢山投げかけてきてくれます。
個人的には、人間の中にある悪に対して深く切り込んで行く部分が好きです。特に現代日本人のあまりにも性善説的な幻想に辟易している方に特にお勧めします。出る杭は打つ、臭い物には蓋をする、都合の悪い物には触れない、触れそうになるとお得意の性善説に逃げ込んで逆ギレ、もしくはフリーズ。そう言った文化の限界に直面している今、真摯に生きていこうとする方に価値のある本だと思います。本の最終部分や終わり方はやや甘美すぎて共感仕切れませんでしたが、前言撤回を辞さず日々新たに成長していく著者のようですから、今後また新たな展開があるのかも知れません。
自分の人生から逃げ出さず毅然と生きていく方がこの日本でも多く育つことを心から願う人間の一人として、この本をお薦めします。