著者は歴史,文学,音楽,絵画などに関する厖大な知識を基に,自らの個性と多分は都合に合せて,海外に旅する毎に一連の人物たちの住んだ街,死んだ場所をも旅した.ここでの人選は全く意表を衝くもので,シュレーディンガーが現れるまでは驚きの連続だった.Louis de Broglie 公爵の家柄も初めて判った.そうして特に印象的なのは大戦に出て25才で自殺しなくてはならなかったWolfgang Doblinの仕事で,まさに著者が序文でMozartの弦五重奏ト短調に触れて述べた走る悲しみ,つまり一瞬にして永遠の闇に呑まれる光芒のきらめきと言えるだろう.全部で17名のこうした輝きは,とにかくこのようにして日本語で記された.まずは停年のお喜びと,この本の執筆の御礼を申し上げる.但し,私の経験からも止むを得ないことなのだが,写真の解像度が時に低過ぎて,殊に銘板などの文字が読めないのが残念.このため減点.しかし物理に興味ある人達には推薦.