いくつかの「倫理的」な問題をめぐり5人の学生(文・経・法・理・医)が意見を「論理的」に述べ合う、というスタイルの本。どれも結論を出すことが目的ではなく、それぞれにもっともな意見をあくまでもロジカルに構築し、それを他人に対して説得的に論じていく、という「技術」の探求こそが、本書のねらいであると思われる。自分も一緒に考えながら読んでいると、思考および弁論術のトレーニングになって非常によい。
なにより、近年の時事ネタから主な論題をピックアップしているのが、読書の刺激となり最後まで退屈せず読み通せるのが素晴らしい。小学生に自分たちが育てた動物を殺して食べさせる「命の授業」、ワールドカップのとき問題になった韓国の「犬食」、生殖技術の発展に伴い出現した「代理出産」と「ベビービジネス」、池田小学校事件の宅間守が自ら望んだ「死刑」、その死刑制度の廃止との兼ね合いで必要となるかもしれない「終身刑」、性犯罪者(特に児童への)に関する情報を一般公開する「メーガン法」、東大の女子大生が楽しくやっている援助交際もそれに当たる「売春」、右手の親指しか動かせなくなったフランスの若者が選んだ「安楽(尊厳)死」、江藤淳が「諒」とせよと世間にうったえた「自殺」、と、それぞれ興味深い話題にもとづきながら、大きな倫理的問題の是非が問われる。
ある種の存在論や認識論のようにごく一部の人間の関心しか集めない「哲学的」な問いとは異なり、普通の人々の日常生活の延長で発生しうるかなり身近な「倫理学的」な問いについて色々と語られているので、高度な世間話といった趣もある。無論、その語りがひたすら「論理的」だから、実に学問的な議論に成りえているわけであるが。
「倫理学ディベート」、と銘打った方がより適当かもしれない。