この巻は良かった。編者が言うように、対象が従来の哲学史の中では、「周縁」に置かれていた思想家を中心に据えた目新しさが物をいった。フランス社会主義、コント、スペンサーなどは、西欧では圧倒的な存在だが、日本では名前だけ、と言った感じだった。実は面白そうだと思いながらも、専門でもなければ、分厚い原書を見るとまたにしよう、ということになる。それに、まあ、読めば面白くても「要約する」とつまらない思想家も居る。まるで、ライヴは良いが録音すると駄目なオペラ歌手のようだ。この巻はそういう損な(?)思想家たちを扱う。この巻では、フーリエとコントは特に出色の叙述だった。個性の強い清水幾太郎に紹介された「コント」では、清水の「感想」が前に出て人物が見えてこなかったが、本書のコントの叙述によって、「大思想家」の相貌が覗うことが出来る。他に、叙述の出色は、クーザンとジェームズだとおもう。ほかの章も悪くは無いが、ミルについては、経済学と論理学に絞った叙述が良かったと思うし、スペンサーは思想の概略よりは「第一原理」「社会学原理」「倫理学原理」あたりに照準を絞ってトピックスを語ったほうが具体性があったと思う。本書全体としては、19世紀から20世紀初頭の欧米の比較的無案内な思想家を語ることで、結果的に、その時代の文化史の一断面を描くことが出来ている点が、このシリーズの中では出色と言える点だと思う。もう少しこの点を意識して構成すればシリーズ全体も良かったと思う。それから、このシリーズで残念に思うのは、時々執筆者のなかに、やや個人的に過ぎる感情を臆面も無く吐き出し、本人と読者のためにならない見苦しい件があることだ。特に参考文献のコメントにそれがあって、他の翻訳のケチ(批評ではない)か、個人の非難に該当するような記載がある(今回は永井義雄)。そんな原稿を一蹴する強さが出版社にはほしい。