哲学の中心的課題は、本書の著者リチャード・ローティが指摘するとおり、知識論にある。知と人間との関わり方を絶えず追求してきたことを哲学史は雄弁に語っている。古くはアリストテレスの形而上学の書き出しを思い起こせば十分であろう。
本書は主としてデカルト以降近代の哲学者を対象にして、20世紀後半までの知識論を視野に収める。中でも著者が信頼おき援用し哲学者は、デューイ、ハイデガー、ヴィトゲンシュタインの3人である。共通項は著者が命名した「言語論的転回(linguistic turn: 同書名の論文集を著者は編んでいる)」で、彼ら以前の伝統的認識論と決別して、新たな地平を切り拓いた領野を巡って、議論は展開する。
相対主義という批判があるが、それは本書を丁寧に読めば、不確定な認識を判断停止することへの潔さであり、性急に二元論的結論を導引することを避け、可能な限り精確な認識を引き出し、知を得るためにある。得た知の客観性を維持するために、ローティは会話(conversation = 共生)の重要性を説く。その柔軟な姿勢は他の著書にも一貫する。
訳は平明で読みやすく、訳者の解説が適切で、本文中の判りづらい箇所に光明を与える。名訳と名解説の誉れある成果である。