都市計画研究者である著者の描く、北満の都市ハルピンがロシアによって形成され、経営され、中華民国東三省による利権回収運動を経て、満洲国の版図となり、新たな都市計画・都市形成を経て終戦を迎えるまでの「都市の歴史」書。同じ著者の「満洲国の首都計画」と比べると、本書の主人公はハルピンという都市であって、その都市のあり方にロシアや中国や日本がどのように関わったのかという側面の詳細が豊富な図表や写真、条文を駆使して解説される。
何しろ記述が具体的なのが、読んでいて面白い。一般的に政策というものをどんな風に作成し、財源を確保し、関係各所との連絡を取り、順に実行していくのかという過程が明確に述べられているので、行政の仕事を理解するケーススタディとしても読める内容だと思う。
また、ロシアが実現した建築物の様式の分析も読んでいて面白く、ロシアにとっての辺境の地であるからこそ全体の様式の基調にアール・ヌーヴォーを採用できたというくだりなどは特に興味深い。
そして歴史的な観点から見てみると、戦後の日本の都市計画では土地問題、地主層の反対で実現できなかった包括的な用地取得と開発利益の還元がハルピンでは採用されていたこと、都市計画の策定の際に特殊利権を設定しようとした勢力をトップのリーダーシップで排除したことなど、今の視点からも先進性を示す点がいくつもある。現在の全国一律の都市計画の景観は、どこに住んでいてもそこがどこなのかわからなくなるほどののっぺらぼうな姿をさらしていて、そんな現在から見ればハルピンの写真の数々は、とても魅力的に映る。
今いる場所の景観を考える際の参考になると思う一冊。