筆者によると、近代人の江戸評価は何度も変転しているそうだ。近代が成熟した今、「江戸に即した江戸理解」が必要だという。そしてそのために江戸文化のインフラである「和本」の豊穣な海へわれわれをいざなうのが本書である。
武士から庶民まで様々な人々に親しまれた和本のテーマは、動物、賭博、易占、言葉遊びなど多岐にわたる。一見してカビ臭い印象を受けるかもしれないが、とんでもない。そこには豊かな広い世界が広がり、人々の血の通った好奇心やユーモアがあふれていて、本質的には今日のわれわれと大いに通じるものである。また、それを許す社会的雰囲気、言論・出版の自由があったということだろう。筆者の文体のタッチもなかなか楽しい。
また、単におもしろおかしいだけではない。ネズミの交配について記した「珍翫鼠育草」という本は、メンデルの交配実験より79年先んじていたという。経験的にだが、進歩した科学的知識があったわけだ。
今でもレッサーパンダが立ったとか、新しい占いが流行っているとか、パチンコの新機種が登場したとか、パロディやネットスラングやジャーゴン集がメディアをにぎわしているのだから、現代につながる大衆文化・メディア文化は江戸のこの時期には成立していたといえるのだろう。