本巻は、『和声―理論と実習』(通称:芸大和声)
1巻・
2巻・
3巻の中にある課題の実施例集です。個々の課題について、基本的に1つずつ実施例が示されています(省略されているものもあり、逆に「または」として別実施が挙げられていることもあります)。また、数は決して多くありませんが、テキストの補遺的な注がつけられています。
和声課題の実施が一意でないことは、少しでも取り組んでみれば自明なことだと思います。「まえがき」にも書かれていますが、本巻に示されている実施は唯一のものでは当然ありません。よって、実施例を丸暗記するような使い方は(まったく無意味ではないかもしれませんが)、本書の意図するところから明らかに外れています。
しかし、だからといって、学習者を拘束するようなものであるとして軽視し、「参考程度に見るべき」とか「なくてもよい」とかいうのも、また少し違うのではないかと感じます。
本巻の「まえがき」には、“学習者は、全力を尽くして自分自身の実施を作り上げるまでは、決して本書の実施を見てはならない…(中略)…みずから実施を完了したのちに、初めて本書を開き、自分の実施と本書の実施とを比較研究すべきである”と書かれています。
《学習者各自の実施例》と《本に載っている範例》は、異なっているのが普通でしょう。そこで、「どの部分がどのように異なっているのか」「似たような例はないか」「さらに他のよりよい実施が考えられないか」など、様々な角度から徹底的に“比較研究”することは有意義であり、むしろそれこそが和声学習の根幹をなすものだと思います。こういった作業は、レッスン受講の有無にかかわらず必須のものであり、また結局は自分ひとりでやらなければならないものです。
そのような“比較研究”を行う手段材料として、課題実施例は必要不可欠なものです。何であっても《もの》が複数なければ、そもそも比較しようがないからです。また、規則や説明だけと比較する(照らし合わせる)ことは、不可能ではないにしろ困難であり、それだけでは十分な理解は得られないでしょう。
以上のことから、“…課題の実施範例集は、和声教科書のたんなる付録ではなく、むしろ、その本質的な部分をなすものと云えよう”という「まえがき」の主張も、まったく正当なものであると思います。1〜3巻とともに、ぜひ使い倒していきたいものです。