認知行動療法(CBT)は当初は恐怖症やうつ病の治療として始まったが、最近ではさまざまな難治性疾患に対しても使われるようになってきている。本書はそうした中で統合失調症の幻聴をターゲットにしたCBTについて書かれたものである。これまで統合失調症に対するCBTはあったが、従来のCBTは幻聴そのものの症状を消去することを目的としていたようである。しかし、その方法ではなかなか上手くいかないということで、幻聴そのものではなく、それに付随する苦痛や問題行動をターゲットにしたCBTを著者らは開発した。
著者らは、幻聴をきっかけや状況としておき、それに対する認知の変容に介入することにより、コントロール感を増し、苦痛を下げることを目的としている。また、本書では幻聴の威力、強さ、力関係、被コントロール感などを客観的な尺度として採用し、CBTの前後でその比較をしている。この幻聴に対する力関係がなぜ起こるのかという仮説として、著者らは社会階級理論を持ち出している。これは、幼児期の人間関係のパターンが幻聴との間でも繰り返されている、というものである。その為、力関係のパターンを変化させることで、幻聴に影響される度合いを少なくするということを目指せるということなのであろう。
これらの設定の上で、7名の事例を本書では掲載している。ただ、事例といっても、どのようなプロセスを経て、どれぐらいの期間で、どういう具体的なやり取りがあったのか、といった中身が詳しく書かれておらず、具体的によく分からない。ただ、幻聴に対する認知を変容させるため、認知再構成法を用いていたり、幻聴に実際に従わなかったらどうなるのかといった曝露法を用いているのではないかとは分かるのだが。
そして、最終章ではこのCBTのランダム化比較対照試験の結果が載せられている。結果として31名の被験者に対してCBTが施行され、中断などのケースもありつつ、従来の精神医学的治療と比較して、CBTの効果の大きさが立証されている。また、付録として、この研究で使われた、各種テストの一部が抜粋されており、大変参考になると思われる。
これまで統合失調症の陽性症状に対しては精神療法は適用にはならないと信じられてきたが、このようにCBTのチャレンジによって技法の開発が進み、効果が立証されてきている。CBTのトレーニングシステムの確立も必要であるが、こうした統合失調症への臨床心理士の介入が認められることにつながると良いのかもしれない。