ー「雛祭り」それは心のふかみに、ぼんぼりで照らし出されるように、私を慈しんでくださった人々の顔がよみがえる旬日ですー
で本書は始まる。名文である。このように辰巳ワールドと言っていいような独特の滋味あふれる文章で、食にまつわる春夏秋冬の雑感89編を綴る。1編は400字詰原稿用紙4-5枚ほど。秋の夜長、酒肴代わりに頁をめくるのもいい。
本書は「読者の皆様が、あたりまえの日々の食事を、美味しく、楽しく、生涯召しあがれることを祈ります」で結ばれる。読み飛ばしてしまいそうな一文だが、身体と心をはぐくむ家庭料理の大切さと、手抜きすることなく合理的に台所仕事をこなすための心構えをさりげなく説く。
個人的にはジョエル・ロブションのエピソードが面白かった。かのロブションから「是非お友達になりたいのでお会いしたい」と言われるあたり、やはり本当にすごい人なのだろう。