どうして,また買ってしまったのでしょうか。でも読みおえてから,妙に嬉しくなりました。どうしてでしょうか。どんな立場の人であれ,いかなる年齢の人であれ,いろいろな人が「共生して生きる」ことのすばらしさを,これほど平易に語りかけてくる文体に出会ったことがことがなかったからでしょうか。
今まで読み続けてきた著者の考え方が,随所に顔をのぞかせていますが,人間としての「成熟」のために,「呪い」とどう向き合うかが,根源的に問い直されており,またしても心をうごかされてしまいました。現代では裾野がひろがって猖獗を極めている「呪い」は,劣化したメディアに煽動され,原子化された日本人が,やむなく肥大せざるを得なくなった「自尊感情」が誘因となっているのでしょうか。自らの存在か,他者の存在かを「呪う」ことでしか心身の存在を維持できない時代の息苦しさが,見事に活写されていて,溜飲が下がります。
読者の中には,この本自体が「呪い」をふっかけている本ではないかと詰る向きもありますが,よく文体を味わってください。その論調には,なおもて人間が他者と共生する能力への期待が込められていると感じられてなりません。生きることには,嫉妬やねたみ,呪いが避けられません。それでもなお,かかわる相手の多様性を認め「祝福」し,落としどころを粘り強く見いだして共存していく能力が人間には備わっていると,著者が湯勇気づけてくれています。そうした力が,人間に大いなる慶びをあたえ,自らの弱さを克服し,自分一人ではなしえなかった能力を開花できると,実にわかりやすく説いている文体が,心に染み入ります。
ただ批判するだけの論者,それこそしっかり読み取りもせず(小生も読み取っていないかも知れませんが),ただ自分の意見と同じか反対かだけで感情的にもちあげたり,罵倒したりする読み方では,何も得ることのない書物かも知れません。
正しいか間違っているか,良いか悪いか,白か黒か,根拠となるデータはあるのかないのか,などといった読み方では,おそらく何も得られない本かもしれません。逆にそうした読み方だけでは,どれほど人間の関係性を発展させる可能性を狭めるのか,「生き延びる」ことを妨げるのかを,これほど情理をつくして語られた本を読んだことはありません。
この本は,「呪い」を根絶せよといっているとも思えません。もちろん「呪い」をうまく使い,憎い相手に一矢報いるための本とも思えません。「呪い」は人類が存続する限りなくならないと読み取れました。むしろ「呪い」をうまく飼い慣らしながら,決して「呪い」に呑み込まれないための処方箋が,とても身近で取り組みやすい形で提案された,実践的なエチカとして読むことができました。挫けそうになる孤独な魂が,日々勇気づけられています。久しぶりに何度も何度も読み直してたくなる本でした。「呪い」から「祝福」,そして人間的「成熟」のために。