ルソー(1779年没)の1712年生〜1765年の53年間の幼年、少年、青年、中年、初老に至る自叙伝である(上・中・下)。青年期以前の追想は文学的である。基底に、ある種の哀しさ、切なさが流れている様に思えた。甘くも苦しいというような相反する感情を懐かしく思い出させる。しかし美化に走りすぎることなく、自分の素質、性格、環境、経験等を率直に述べている。中年以降は人間関係に悩むルソーが被害妄想的になっていく様子が覗える。身分は低いが、世に出たい。が、社交下手ということでジレンマに陥っていく。
女性に対するルソーの想いはこの自伝の大きな柱である。当時の恋情を語るルソーには熱がある。しかし、妻テレーズへの愛情はどれ程のものだったのか。嬰児を孤児院に入れたという事実がある。経済的事情が原因だと思われるが、罪悪感無しには出来なかっただろう。ルソーの弁明もあるが、道徳的には避けるべきことだったろう。私も「何故に?」と頭を離れなかった。ルソーとテレーズの苦衷が察せられる。ルソーの思想の偉大性は認められるところである。しかし、この行為の妥当性には疑問符を付けざるを得ない。もしかすると「告白」には記されない秘密があるのかもしれない。「告白」は赤裸々に自己を語っているが、孤児院の件は重要な割りに記述がアッサリしているからである。しかし、淡々と語ることによってしか哭声を抑えることが出来ない痛ましい過去なのかもしれない。理想主義者の一面と生活に苦しみ嬰児を手放すという一面の懸隔がルソーの生涯にはある。生きる上での人間の多面性を考えさせられた。