「ねこ新聞」で知られる著者の連載「愛猫家列伝」に加筆した一書である。
天馬空をゆくエコロジーの巨人「南方熊楠」が50年間書き続けた日記を精読して「ぶらっとロンドンの街を歩く時でも、彼の目はいつも町の猫の動静を細かく追って観察していた」ということに驚く。
日本人の心の種を播いた「岡倉天心」はボストン美術館のガードナー令夫人へ書いた愛の書簡が紹介されている。もらったペルシャ猫を進呈して帰国するときの書簡「お前は世界中の猫を殺してしまったようなものさ。何故って、お前だけがわたしにとって唯一の親愛なる猫なんだもの。…猫族の女性なぞとは懇意にならない方がいいと思うね。お前を理解するようなふりをしながら、実は彼らの眼と全く同様な恐ろしい爪を隠した腹黒い奴ばらなのだからね」
羊頭狗肉ニッポン亭を射る「シュバイツァー博士」の高邁な志操に傾倒し、夫婦でアフリカに赴いた医師高橋功は博士と猫との出会いを書いている。「その左腕に抱かれたシチ(迷い込んできた猫)が眠りこけると、その安眠を妨げまいと、右手だけで書きものをこなした」
猫を通してここで取り上げた人たちは、期せずして、純粋な汚れのない「道を極めた人たち」である。無垢な猫たちへのまなざしは、魂の地盤を喪いかけた現代を忌避する心を裏に秘めている。