ドイツ表現主義ですが英語でドラキュラとクレジット表記されているので米国公開ヴァージョンのようです。クリストファー・リーのドラキュラが惚れ惚れするようなカッコよさ、セクシーさに高貴さがあるのに対し、オルラックは不気味でグロテスク。坊主で目がぎらぎらしていて爪が長いです。しかしよくこんな顔の人を見つけてきたものです。マックス・シュレックという人。人間に見えません。幽霊です。黒沢清監督が「どうやったら幽霊は幽霊に見えるんだろう」といつも悩んでいると言ってましたが、その一つの答えがこれ。人間に見えない人を探してくるということです。ある程度は特殊メークしているんでしょうけど、しているように見えないし、これは凄いことです。
話は「清純な乙女だけが悪を滅ぼすことができる」みたいなドイツらしいロマンチックなラストを除けば、ほぼブラム・ストーカーの原作と同じでした。原作がよく出来ているので映画も面白いです。どんどん疫病がブレーメンに広がっていき、町に葬列が延々と続くところなどがとてもいいです。
もちろん最大の見所はシュレックで、城から最初に出てくるところ、棺おけの中で寝ているのをジョナサンが見つけるところ、船の上を歩くところ、など、凄い迫力。船底で棺おけから立ち上がるところなど、まっすぐ背中を立てたままスーッと起き上がるのが本当に亡霊みたいで、この場面はとても怖いです。ラスト、太陽の光で滅んでいくところも、なんという奇怪な動きでしょうか。今の映画みたいにあんまり苦しまず、煙を出しながらヒューっと消えていくのがこの世のものでない感じ、はかなさが出ていて良かったです。
最後にニーナがオルラックに体を任せる?(処女を捧げる?)ことで人々を救う、というのが、「巨人ゴーレム」の少女のリンゴにも通じていて面白いです。「無垢」こそが悪を滅ぼすというロマンですね。
また、オルラックの召使のレンフィールドも虫を食べたり屋根に上ったり、鉄格子によじ登ったりして熱演でした。この人もせむし気味で不気味でした。
ジョナサンがやたら大仰な演技だとか、ヘルシング教授が食虫植物を観察するだけで全然活躍しないとか、部分的な不満はありますが、やはり怪奇映画の名作の一つだと思います。